たちきり 別名「入れ黒子」「たちぎれ線香」
お茶屋道楽の若旦那、親族会議の結果、心を入れかえさせるためということで、百日の間倉住まいをさせられる。この若旦那と相愛の芸者小糸は、若旦那が来ないので連日矢のように文をよこすが、番頭がこれをしまいこんで若旦那に見せない。そのうち手紙は来なくなり、百日の期限も過ぎてやっと倉から出してもらった若旦那は、すっかり目がさめた様子なので、番頭は最後に来た手紙を目を通してくれと差し出した。見ると「今晩来てくれねば、この世の別れになろうかも知れぬ」とある。驚いた若旦那は南の小糸の家に行き、小糸はときくとおかみは仏壇をあけて白木の位牌を見せ、実は若旦那が来ないのを案じながら病気になり、こしらえてもらった比翼の紋入りの三味線を弾きながら死んでいったとの話に若旦那も胸がつまる。線香をあげて、酒を飲んでいるうちに、仏壇に供えてあった三味線がひとりでに鳴りはじめた。若旦那は目に涙をためながら耳をかたむけていると、地唄の雪を唄う声が途中でぴたりと止まったので、糸でも切れたかと仏壇を見たおかみは「若旦那、もうこの妓は三味線弾きゃいたしまへん」「なんでや」「ちょうど線香が、立ち切れでございます」
解説
むかしは芸者の花代は、線香の時間で計った。これを説明しておかないとサゲがわからない。上方種のはなし。原話は文化三年江戸版「江戸嬉笑」に載っている「反魂香」