粗忽の釘(そこつのくぎ) 別名「我忘れ」「宿がえ」「粗忽の引越」

そこつ者の亭主、引越しだというので重い荷物をかついで出たがなかなか新しい家へ来ない。すっかり引越しも終わったころやっとやって来た。きけば自転車にぶつかってひっくり返ったりしているうちに行先がわからなくなったのだという。女房にとりあえずほうきをかけるんだから長い釘を打ってくれといわれ、ぶつぶついいながらかわら釘という長い釘をかべに打ち込んでしまう。となりの物をこわしたかも知れないから行ってあやまっておいでといわれ、向かいの家へ行く。はなしが通じないのでやっと気づき、改めてとなりに行く。落ちつこうとして、お宅のおかみさんは仲人があってもらったのかなどといいだし、なかなか用件に入らない。やっと釘のことを思い出して、見てもらうと仏壇のあみだ様の頭の上に出ている。「おや、お宅じゃここにほうきをかけますか」

解説
本来はこのあと家族は何人だときかれ、父親を二階に寝かせたまま忘れてきたのに気がつく。「親を忘れるとはおどろいた」「親どころか時には我を忘れます」でサゲるが、とってつけたようなので「ほうきをかけますか」で最近はサゲている。上方では「宿がえ」という。原話は文政十三年京都板「噺栗毛」(初代都喜蝶作)に載っている「田舎も粋」。

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