不動坊(ふどうぼう) 別名「不動坊火焔」「幽霊稼ぎ」
家主が、店子の吉公を呼んで、三年前に死んだ講釈師の不動坊火焔の後家を女房にもらえという。女も吉さんならというし、吉公もねがったりかなったり。吉公は不動坊の残した五十両の借金を払ってやって、いよいよ祝言ということになった。この女、なかなかの器量よしなので、長屋の独り者はみな、あわよくばとねらっていた。そこでおもしろくないと思う連中が五、六人集まって、婚礼の晩にいやがらせをやろうということになり、不動坊の幽霊を出すことになった。幽霊役には、むかし寄席芸人だったという町内の職人を頼み、いよいよ夜になったので、ひもでゆわえた幽霊を屋根からおろすこととなった。ドロドロという鳴り物につれて、幽霊がスーッと下がって来たが、吉公はいっこうにおどろかない。「てめえが背負った借金を返してやって、うらまれてたまるものか。礼のひとつもいえ」とやり返され、幽霊は仕方なく「ありがとうございます」そこで吉公「なにをいいやがる。さてはてめえ、宙に迷ってるんだな」「いえ、宙にぶら下がっております」
解説
上方種で、三代目小さんが東京へ持って来た。二代目林家菊丸作といわれ、本来のサゲは「幽霊(遊芸)稼ぎ人です」といった。明治時代、落語家が「遊芸稼ぎ人」という鑑札を受けていたことがあり、これからサゲができた。