道具屋(どうぐや) 別名「道具の開業」
三十すぎてもぶらぶらしている与太郎に伯父が自分の内職の道具屋をさせることになった。符牒で”ごみ”といわれるがらくだを持って与太郎が蔵前へ行くと、先に店を出していた道具屋が、伯父さんから話をきいているといっていろいろ教えてくれた。そのうちに客が来たが、ノコギリを買いに来た客に火事場でひろったんだといって逃げられる。隣の道具屋が「もっと客をおだてて売りつけるんだ」と注意し「買わずに行く客を”小便”という」と教えてくれた。しかし与太郎はへまばかりやるのでちっとも売れない。股引きを買いに来た客に「小便はできませんよ」というと符牒と知らない客は買わずに帰ってしまう。次の客が短刀を見て、引っぱってくれというので、木刀なのに一緒にひっぱり合うしまつ。「すぐぬけるのはないか」といわれ「おひな様の首がぬけます」鉄砲を見せろといわれて出し「これはなんぼか」「一本です」「この鉄砲の代じゃ」「台はカシです」「鉄砲のかねじゃ」「鉄です」「ばかだな。鉄砲の値じゃ」「ねはズドーン」
解説
与太郎のまぬけぶりを並べただけで格別のストーリーがないせいか、サゲがたくさんある。@鉄砲の値のほかA「この小刀は先が切れないから十銭に負けろ」「いえ、十銭にしては先が切れなくても元が切れます」B客が笛へ指を突っ込んだままぬけなくなる。この笛はいくらだときくと、与太郎はここぞと高いことをいう。「おいおい、足元を見るな」「いえ、手元を見ました」Cは笛で押し問答をしているうち、指がスポンとぬけたので与太郎あわてて「負けます、負けます」「いやいや、指がぬければただでもいやだ」D笛がぬけないので買うことにした客が持ち合わせがないので与太郎を下宿まで連れてきたが、部屋へはいったきりで出て来ない。与太郎は表へまわり窓の格子の間からのぞき込んで、早く代をくださいよとさいそくしているうちに与太郎の首が窓の格子にすっぽりはまってぬけなくなる。困った与太郎「この窓はいくらです」。このほかおひな様の首でもサゲられる。小便のくだりの原話は宝永二年板の露の五郎兵衛作「露休置土産」にある「小便の了簡違ひ」。@のサゲの原話は安永二年板「稚獅子」所載の「田舎者」